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Webの媒体特性とユーザーリテラシー
-益子 貴寛の『Webライティングの理論と実践』 第1回

Web上で魅力的な文章やキャッチコピーを書くためのライティングメソッド「Webライティング」。今回は「Webの媒体特性」と「ユーザーリテラシー」の観点から、Webライティングについて考えてみよう。

Webの媒体特性とWebライティング

Webベースの文章と紙ベースの文章のどちらを長く読んでいられるかといえば、紙ベースと答える人が圧倒的に多いだろう。Webライティングの観点からWebサイトと紙媒体の違いを考えてみると、次の5つがWebの媒体特性として浮かび上がってくる。

1. 双方向性・対話性が高い
低コスト、情報受発信の障壁の低さなどの理由から、Webはユーザーがリアクションを寄せやすいメディアである。このような双方向性・対話性は、Webの媒体特性を決定づける大きなポイントである。
2. 見にくい・読みにくい
紙媒体では文字にアウトライン処理がなされているのに対し、ディスプレイに表示される文字はアウトライン処理がなされていないこと、ディスプレイ自体が発光していることなどから、紙媒体よりも目に負担がかかる。また、日本語は新聞や本に見るように基本的に縦書きの文化なのに対し、Webページは横書きという点も見逃せない。
3. 一覧性が低い
本や雑誌であれば、A5版、B5版、四六版など制作者がサイズを選べるが、Webページの場合はどのようなディスプレイサイズで表示されるかはユーザー環境に依存する。文字とディスプレイサイズとのバランスを考えれば、一画面に表示できる情報量は紙媒体よりも少なく、一覧性が低い。
また、移動性の問題もある。紙媒体では他のページへの移動は極めて容易だが、Webページの場合は画面をスクロールさせたり、リンクを何度もクリックするなど、移動に手間がかかる。
4. 断片的・直感的である
紙媒体の情報はある程度体系性・連続性があるのに対し、Webではリンクをクリックすれば全く関係のないページに移動できる。このため、情報が断片的・非連続的である。また、Web上には無数のアクセス可能な情報があり、直感的な判断のもとづいた情報の取捨選択を強いられる機会が多い。
一方、紙媒体の場合は、1冊の本や雑誌に載っている情報量には限りがあり、読者はその範囲内での取捨選択しか求められない。つまり、Webは本や雑誌などの紙媒体よりも断片的・直感的であり、ユーザーの思考パターンは「移り気」な状態だ。
5. 情報の正確さ・適切さへの努力が特に必要
紙媒体では間違った情報を掲載してしまっても修正することはできないが、Webではすぐに修正できる。ただし、このことが情報の正確さ、適切さへの努力を怠る原因ともなる。
紙媒体であれば著者のほかに編集者や校正係などがおり、発行される前に何人もの目を通るので、自然と間違いが少なくなり、洗練された文章になる。一方、Webサイトではひとりの人間がすべてを兼ねることも珍しくないので、文章は低きに流れてしまいがちである。

紙媒体以上に工夫が必要なWebでの文章

このような媒体特性を考えると、Webでは紙媒体以上に読みやすくわかりやすい文章が求められ、さらにそのための工夫や体制づくりが必要とされるのである。

「読みやすさ」の実現には、ひとつの段落は3行から5行程度に収める、フォントサイズは小さくしすぎないようにする、行間は広めにするなどがある。また、「わかりやすさ」の実現には、適切な見出しをつける、結論をはじめに示すような文章構成にする、文章をリスト化したり図表化するといったことが大切だ。

SEO(検索エンジン対策)を考えた文章表現も不可欠である。文章それぞれをマークアップ(HTMLXHTML)によって適切に構造化し、見出しの書き方、キャッチコピーの書き方、キーワードの埋め方などを、「人間」だけでなく、ブラウザなどのソフトウェアや検索クローラーのような「マシン」が理解し、評価しやすいような状態にする必要がある。

変わるユーザーリテラシーとWebライティング

リテラシーには「読み」と「書き」という2つの能力が関係している。2005年後半から「Web 2.0」という言葉がWeb業界を席巻しているが、このようなトレンドはWebライティングとも無関係ではない。

Web 1.0時代にはユーザーは読む能力だけあればよく、書く能力は一部の情報の送り手だけが備えているだけだった。しかし、Web 2.0時代のユーザーは読むだけでなく書く能力を備えた「発言するユーザー」である。これは特に、若いころからインターネットに慣れ親しんでいる青年層、若年層に顕著だ。

年月が進むごとにこのようなユーザー層が拡大していくことを考えれば、法人サイト(企業や官公庁、自治体、財団・社団法人など)であっても一方通行の情報提供は通用しないこと、ユーザーとのフラットなスタンスが求められることがわかるはずだ。これは「供給者主導の経済から消費者主導の経済へ」というより大きなコンテキストとも相通じるところがある。

Web 2.0時代に求められるサイト運営者のスタンス

これまで、経営者はクローズド(閉鎖的)なスタンスによって神秘性や神格性が守られると信じられてきた。しかし、Web 2.0時代は極端にいえば「我も人なり、彼も人なり」であり、経営者自らが書くリテラシー、表現するリテラシーを備え、ブログなどを通してユーザーとフラットに付き合うとことがブランディングにつながる可能性だってある。

Web 2.0時代では「サイト」ではなく「サービス」であることが求められる。サイトをユーザーが見られる状態にしておくだけではプロセスは完結しないということだ。これまで「ポスター」「パンフレット」「カタログ」としてしかサイトを見てこなかった法人は、大幅なスタンスの変更を迫られることになる。

既存のメディアに対するWebの優位性はそもそも何かといえば、「双方向性」や「対話性」、つまり情報の送り手と受け手が相互に作用できるということである。自然、サイト(場所)だけなくサービスという色彩をはじめから帯びていると考えるべきである。Web 2.0をもって(より高度な形での)「Webの原点回帰」とする意見もあるぐらいだ。

ユーザーは情報の受け手であるだけでなく、すでに情報の送り手でもある。ただ情報を入手するだけでなく、その情報についてさらなる情報を生み出す担い手となっている。しかも、個々のユーザーが個別にサイトを見ているわけではなく、ユーザー同士のコミュニケーション(ブログ、掲示板、ソーシャルブックマークなど)によって複眼的に見て判断している。

ある新製品を発表した場合、Web上で瞬時に多種多様なレビューが公開される。もしコメントやトラックバックを受け付けていれば直接それらの声を取り込むことができる。

よい感想や意見が寄せられれば、いわゆる「手前味噌」ではない読み手を真に訴求するレビューをコンテンツとして提供できることになる。一方で、悪いレビューが瞬時に渦巻いてしまうという脅威もあるが、それを積極的に取り込めば、商品・製品の「カイゼン」に活かしたり、開発サイクルを早めることだってできるわけだ。

そもそも、サイトがオープンではなく、サービスとしての役割を放棄しているのであれば、成熟したユーザーのニーズを満たしたり、良好な関係を築くことは困難であり、マーケティングやブランディングにも大きくかかわってくることになる。

Webライティングの観点からは、たとえば法人サイトがマーケティングやPRのために広報ブログを設置したが、担当者が一定のリテラシーを備えていないためユーザーとのコミュニケーショントラブルが発生する、といった事態の発生を防ぐことが大切だ。ユーザーリテラシーにあわせて、法人サイト側もリテラシーを向上させる、具体的には担当者などがWebライティングスキルをしっかりと身につける必要があるのだ。

プロフィール

益子貴寛

益子貴寛(ましこ たかひろ)
サイバーガーデン代表。1999年5月にWebリファレンス&リソース提供サイト「CYBER@GARDEN」を立ち上げる。一般企業に勤務しながらもWebデザイン誌での執筆やW3C仕様書の翻訳活動を続け、2003年5月に独立。Webサイトのプロデュース、Web制作会社のコンサルティングに従事するほか、講義・講演や執筆活動も活発に行っている。著書に『Web標準の教科書 ─ XHTMLとCSSで作る“正しい”Webサイト』、『伝わるWeb文章デザイン100の鉄則』 (ともに秀和システム)など。雑誌でも『月刊web creators』『WEB STRATEGY』(ともにMdN)でも好評連載中。

益子 貴寛の『Webライティングの理論と実践』

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