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"守り" ではなく、"攻め" のアクセシビリティのススメ
- 植木 真の『アクセシビリティとWeb標準、SEO』 第1回

JIS X 8341-3制定により進んだアクセシビリティ対応

2004年6月に JIS X 8341-3(『高齢者・障害者等配慮設計指針-情報機器における機器,ソフトウェア及びサービス-第三部:ウェブコンテンツ』)が制定されたことをきっかけにして、官公庁や自治体はもとより、企業サイトにおいてもアクセシビリティに積極的に取り組む企業が増えています。JIS 制定前後は、業種もIT関連がほとんどでしたが、最近では百貨店、新聞社、銀行、証券、食品、製薬など、業種に関係なく広がっていることは皆さんもご存知のことでしょう。ガイドライン整備や法制化では先行していた欧米などの海外諸国でも、最近は企業サイトでの取り組みが徐々に始まっているようですが、こと企業サイトのアクセシビリティ対応という点においては、既に日本がリードする立場にあるといっても過言ではありません。実際に、来日した欧米のアクセシビリティ専門家は、日本の企業サイトにおける事例を知ると一様に驚きます。

企業サイトが取り組むその理由

では、なぜ企業サイトがこれほどまでに積極的にアクセシビリティ対応を進めているのでしょうか。JIS(日本工業規格)は、企業にとっては遵守義務はなく、あくまでもその自主性に委ねられています。中には、独自のガイドラインをサイト上で公開している企業もありますが、ガイドラインを公開しないまでもアクセシビリティ・ポリシーのページを設けている企業のコメントを読んでみると、多くはそのキーワードとして "CSR(企業の社会的責任)" を挙げています。実際に、弊社のクライアントのほとんどは大手企業なのですが、そのコンサルティング案件でも "CSR" や "コンプライアンス(法令遵守)" を挙げる企業が多いです。もちろん、マーケットそのものが高齢化している昨今では、シニア市場を見据えているケースもありますが、それでもどちらかというと "守り" のニュアンスが強いのも事実です。これには、「アクセシビリティ=障害者ユーザーへの配慮」というイメージが世間一般的に強い、ということもかなり影響しているのでしょう。そのせいか、アクセシビリティ対応を始めたいというサイト運営者の皆さんは、アクセシビリティを何か特別なものとして捉えていることが少なくありません。今までやってきたことに加えて、プラスアルファでやるもの、あるいは、やらなくてはならないといった義務感のようなものといったほうが正確かもしれません。

アクセシビリティとWeb標準、SEOとの関係

しかし、今後のWebサイト制作や運営において、アクセシビリティは決して特別なものではなくなてくるはずです。たしかに、欧米でアクセシビリティといえば障害者ユーザーへの配慮のことを指しますし、日本のJIS X 8341-3ではそれに高齢者ユーザーも加えて語られているので、プラスアルファというイメージがあるのは確かですし、それ自体はもちろん間違いではありません。ただ、アクセシビリティをそういうものとしてしか捉えていないと、それを取り巻く大事な要素を見逃してしまうことになります。弊社のコンサルティング案件やセミナー・研修などでは常にお話させていただいていますが、一歩後ろに引いてみると、ここ数年のキーワードとして "SEO(検索エンジン最適化)" というのがあります。そして、さらにもう一歩引いてみると、"Web標準(Webスタンダード)" というキーワードがあるのです。昨今のサイト運営において無視することのできないこれらのキーワードは、一見するとアクセシビリティとは何の関係もなくバラバラの点のように見えます。しかし、アクセシビリティとSEOには共通点が多くあり、さらにこれらはWeb標準の構成要素でもあるのです。つまり、それぞれが相互に関連しあっており、その関連性の中でそれぞれを考えていくことが大切です。

"守り" ではなく "攻め" のアクセシビリティ

このことを意識し始めると、アクセシビリティは決して "守り" の姿勢で取り組むものではなく、むしろ "攻め" の姿勢で取り組むべきものだと考え方が変わってきます。特に企業サイトにおいては、取り組むことの意義がより明確になってくるはずです。たしかに、アクセシビリティを意識すると、コンテンツを制作する上ではこれまでになかった制約を感じることもあるでしょう。しかし、それは制約として捉えるよりは、そもそもの前提が変わったと捉えるべきです。

是非ともそういう意識と姿勢でアクセシビリティを改めて考えてもらえたらと思い、そのきっかけの一つになればとこの連載記事を書かせていただくことにしました。さらに、それぞれのキーワードに関しては、書籍や雑誌連載記事などでお馴染みのエキスパートの皆さんにも、このコーナーで並行して記事を書いていただけることになりました。大藤さん、住さん、益子さん、木達さん、いずれも第一人者の方々ばかりです。

皆さんは、アクセシビリティを考えるとき、"木を見て森を見ず" になっていませんか? アクセシビリティという1本の木だけを見るのではなく、Webという大きな森全体の中でそれを構成する一要素としてアクセシビリティを考えてみてください。

筆者プロフィール

写真:植木真

植木 真(うえき まこと)
主に大手企業サイトのアクセシビリティ対応をサポートするコンサルタント。2004年10月に株式会社インフォアクシアを設立。2004年6月に制定された JIS X 8341-3 の策定作業に従事した後、現在は W3C/WAI の WCAG ワーキンググループで『WCAG 2.0』の策定作業にも参画している。また、WAT-C(Web Accessibility Tools Consortium)の共同発起人として、オーストラリア、アメリカ、イギリスのアクセシビリティ専門家ともコラボレーションしている。

株式会社インフォアクシア:http://www.infoaxia.co.jp

植木 真の『アクセシビリティとWeb標準、SEO』

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