このページの先頭です
ここから本文です 実践ノウハウ

実践事例インタビュー:第1回 富士通株式会社

  • 富士通株式会社 高橋宏祐氏
  • 富士通アプリコ株式会社 田中智子氏

実践事例インタビューの第1回は、富士通株式会社。『富士通ウェブ・アクセシビリティ指針』を、JIS X 8341-3が制定される2年前の2002年6月に公開してサイトのアクセシビリティ改善に取り組み、チェックツール群の『富士通アクセシビリティ・アシスタンス』を無償でダウンロード配布するなど、アクセシビリティを自ら実践しながら啓蒙と普及にも力を注いでいる。日経パソコンの企業サイトユーザビリティランキングでも2004年から3年連続1位を獲得。日本の企業サイトを代表する存在である。常に一歩先を歩んできた富士通のWebサイトの現状と課題を中心にお話を伺ってきました。(聞き手: インフォアクシア)

「アクセシビリティは継続していくことが大切」

- まず最初に、富士通のWebサイトにおいて、それぞれどのような役割を担っていらっしゃるのか、自己紹介がわりにお聞かせいただけますか。

高橋氏(以下、敬称略)「一言で言えば、私は富士通サイトのWebマスターです。おそらく、他社のWebマスターの方々と違うのは、私はコンテンツだけでなく、サーバ、セキュリティ、個人情報保護なども担当していますし、海外のサイトも全て私が管理しています。その意味では、いわゆるWebマスターよりも守備範囲は広いのではないかと思います。」

田中氏(以下、敬称略)「私は富士通アプリコという富士通のグループ会社に所属しているのですが、1998年頃から8年間、高橋さんのプロジェクトチームの一員という感じで、富士通グループのWebサイトの制作・運営に関わっています。担当している主な業務は、『富士通ウェブ・アクセシビリティ指針』の初版が出た2002年頃からアクセシビリティを担当するようになり、その他に富士通グループの各種ガイドライン作成時にはドキュメンテーションも担当しています。」

『富士通ウェブ・アクセシビリティ指針』を2.01版にマイナーチェンジ

- 富士通さんといえば、やはり2002年6月に公開された『富士通ウェブ・アクセシビリティ指針』によって、日本の企業サイトにおけるアクセシビリティをリードしてこられましたが、つい先日その指針を2.01版に改版されましたよね。


富士通株式会社 コーポレートブランド室 高橋宏祐氏

高橋「富士通の指針は、JIS X 8341-3などの規格策定作業にも参画した標準化担当者、様々な研究成果を有するデザイン部門、そしてコンテンツへの実装そのものを担当している私と、それぞれ異なる立場でアクセシビリティの向上に取り組んでいた三者による共同作業で作り上げたものです。2004年6月には、制定されたばかりのJIS X 8341-3の内容を反映させて改版して2.0版となりましたが、今回の2.01版は、昨年末に総務省から発表された『みんなの公共サイト運用モデル』の報告書をふまえつつ、JIS X 8341-3 制定当時の富士通における解釈と最近の一般的な解釈とがやや異なる部分があったため、 微修正をしました。いってみれば、マイナーチェンジですね。」

田中「もう少し具体的に言うと、結果的には富士通の各指針項目と対応しているJIS X 8341-3の項目とのマッピングを見直した程度の変更です。内容的なものは全く変わっていません。」
- なるほど。だから、2.1とかではなく、”2.01” なんですね。

JIS X 8341-3 制定以降、企業サイトではアクセシビリティ対応を開始するにあたり、独自のガイドライン策定を行うことがよくあるが、このように定期的にガイドラインを点検して、必要に応じて改訂を重ねていくということが大切である。

『富士通アクセシビリティ・アシスタンス』もバージョンアップ

- それから、ほぼ同時にアクセシビリティ診断ツール群の『富士通アクセシビリティ・アシスタンス』もバージョンアップされましたよね。

高橋「『富士通アクセシビリティ・アシスタンス』には、WebInspector、ColorSelector、ColorDoctorという3つのツールがあるのですが、中でもソースコードをチェックするWebInspectorは本当に様々なサイトでご活用いただいているようです。今回のバージョンアップでは、総務省のみんなの公共サイト運用モデルに沿ったチェックができるようになったり、細かいところでは単語内のスペースの有無などもチェックできるようになったり、機能面の向上をはかりました。おかげさまで、ダウンロード数は累計で10万本を超えていて、今回のようにバージョンアップした時にはダウンロード数も増えるのですが、それ以外のときでもコンスタントにダウンロードして頂いているようです。」

画面イメージ:富士通アクセシビリティ・アシスタンスのページ

企業サイトランキングで3年連続1位は嬉しい反面…

- たしかに無償で利用できるチェックツールとしては、代表的な存在になっていますよね。そして、ちょうど今朝の日経産業新聞紙上で発表された、日経パソコンの『企業サイトユーザビリティランキング 2006』で見事に3年連続1位を獲得されました。おめでとうございます。

高橋「ありがとうございます。ただ、最近はよくわからなくなってきたというのが正直なところです。というのは、富士通もやっているけど、他社はもっと頑張っているのではないかと思いますし、社内的に少し奢りが出てきたりしないかと心配になったりもしているのです。」

- それは少し意外ですね。

高橋「大事なのは、やり続けることだと思います。企業として、世間的に象徴的な課題は一度は実行できますが、一度やった課題に再度、積極的に取り組むことは少ないです。ビジネスメリットを明確にしWebサイト上においてビジネスとアクセシビリティをどう両立させるか、そこが一番悩んでいるところでもありますね。このランキングがもし来年もあったとしたら、もしかしたら富士通のランクが落ちているかもしれないと思います。2004年以降、銀行、証券、ショッピングなど、ありとあらゆるものがWeb上で展開されるようになってきていますし、ビジネス視点の強い人たちにもアクセシビリティを確保し続けていくことの重要さをどう理解してもらえばいいのか、頭を悩ませていたりしますよ。」

- 富士通さんでもやはりそういった状況が起こりつつあるのですね。現場に近い立場にいらっしゃる田中さんは3年連続1位というのをどのように受け止めていらっしゃいますか。

田中「まず、やった!というのが最初でしたね。と同時に、次にプレッシャーを感じた、というのが正直なところです。アクセシビリティに関しては、指針を出した当時の ”アクセシビリティって何なの?” というのはもう少なくなっていますし、アクセシビリティがビジネスともつながっている、というのも何となく分かってきていると思うのです。もちろん、今でもやはり “それって売上につながるの?” という話も出たりしますが、これはアクセシビリティに限らないですけど、”お客様に対する思いやり” が企業風土として根付いていけばいいなと思っています。たとえば、目の前に車椅子の人がいれば誰だって押してあげたりとかするのに、それがWebになると、お客様が見えにくくなって、そういう気持ちを忘れてしまいがちになる気がするのです。その部分をどうクリアしていけばいいのか、まだ自分でも分からないのですが、自分の両親だったら読めるかな、使えるかな、って考えてみるとか、もっと長い目で考えると、今のうちに頑張っておくことで 自分が衰えたときには社会がサポートしてくれるようになっているとか。そのためにも、元気な今の自分が頑張らなくてはいけないんだ、と私は自分に言い聞かせたりしているんですけどね(笑)」

高橋「この3~4年はどうにかやってくることができましたが、この先これからはどうなるのかという不安はありますよね。いかに継続していくか、が今後の大きな課題の一つです。」

"3年連続1位" という嬉しいニュースが飛び込んできたインタビュー当日。しかし、2人の反応は意外なものだった。組織的に取り組むという意味では成果を上げてきている富士通でさえ、継続することの困難さという課題に直面しているという事実。アクセシビリティは一過性のものではなく、Webコンテンツを制作し、Webサイトを運営しているかぎり、永続的に続くテーマであることを改めて再認識させられる。

現場に理解してもらい、継続していくことの大変さ

- 富士通さんほどの規模になると、組織で取り組むことの難しさ、というのもあると思うのですが、そのあたりはいかがですか。

高橋「10,000ページだろうと、100,000ページだろうと、もし私が自分ひとりでやるのであれば何とかできる自信はありますよ(笑) でも、実際には、私が直接担当しているのは1,000ページくらいしかないわけで、富士通全体の15万ページのその他の残り149,000ページをどうするか、ということになります。海外諸国も含むいろいろな部門の方々に、どのように理解してもらって共感してやってもらうか、というのが難しかったですね。よく ”富士通さんはトップダウンでやっているから” って言われていますけど、社長が「やれ」と言ったわけではないですし、組織として実行するためのスキームを考えて、ガバナンスをきちんとやったというだけなのですよ。」

画面イメージ:富士通サイトのHOMEページ

- 現場の皆さんに理解してもらうのに効果的だった手法とかがあれば教えていただけませんか。

高橋「現場の方々の意識を変えるには、実例を見せるのが一番だと思います。富士通では、定期的にユーザー検証を実施しているのですが、そういう場に来てもらって、実際のユーザーがいかに迷っているか、自分たちの作ったサイトがいかに使えていないか、自分のやったことがどれだけユーザーを困らせているか、というのを自分の目で見てもらうようにしました。これはどちらかというと、ユーザビリティの側面が強かったりもするのですが、そうやって現場の意識を変えて、彼らから上の人たちに働きかけてもらうという感じでしたね。」

Webサイトの制作や運営に関わる人の中で、実際にユーザーが操作しているところを見たことがある人はまだまだ少ないのではないだろうか。”目からウロコが落ちる” という言葉があるが、初めて目の当たりにしたときにはそういう状態になることが多く、現場レベルから上層部を説得する際にも “論より証拠” として、とても有効な手段である。

- 海外の事例などでは、みんな口を揃えて “トレーニング(教育)が大事だ” と言いますが、富士通さんではトレーニングや教育に関してはどのようなことをされているのですか。

高橋「Eラーニングのコースがあったりとか、Webマスター向けの2日間の座学研修を実施したりとか、そんなことをやっています。ただ、これはアクセシビリティに限らないのですが、全体的に教育をどうすべきか悩んでいるところでもあるのです。企業のWebサイトというのは、一人で作れるものではないですし、何百人という人が関わっていますからね。そして、最後は “人” です。コンテンツを作るのは ”人” ですから、いかにみんなのベクトルを合わせていくか、という意味でも、トレーニングというか教育というのは大事ですし、もっといい方法がないかなといつも考えていますね。」

Web標準(Webスタンダード)の流れはウェルカム

- 以前、高橋さんが「品質基準がないのはWebだけ」とおっしゃっていたのがすごく印象に残っているのですが、最近 Webスタンダード(Web標準)というキーワードがよく聞かれるようになってきましたが、これについてはどんなふうにお考えですか。

高橋「ウェルカムですし、富士通のサイトでも実際にやってみたのですが、ブラウザの実装が追いついていなかったりして難しかったし、とても大変でしたね。もうちょっとブラウザのサポートが進まないと、まだ少し早いような気もします。盲目的にやってしまうと危険かもしれません。富士通では、CSSをグループ全体で国内外関係なく共通のものにして統一しているのですが、何か間違えると17ヶ国語15万ページ全部に影響が出てしまうので、シビアな問題になることもありますよ。実際に、一度そういうことがあって大変な思いもしましたし(苦笑) 何事もそうですが、やり方をしっかり考えないと逆に問題が起きることもあるので注意が必要ですね。」

- よくCSSを使うと、CSSファイルを変更するだけでサイト全体のデザインを一斉に変更できる、というメリットが語られることもありますが、たしかに考えてみれば諸刃の刃ですよね。田中さんは、Webスタンダードについてはどのようにお考えですか。


富士通アプリコ株式会社 ソリューションサービス事業部 
Webソリューションサービス 田中智子氏

田中「私も基本的にはウェルカムですよね。サイトの制作現場から離れて考えると、すごくいいことだと思います。標準化が進んでいる、という時代の流れというのも肌で感じていますし、そういうサイトが増えていけば、ブラウザのサポートも今以上にもっと進んでいくのではないでしょうか。たとえば、私の使っているブラウザや支援技術ならOKでも 隣の誰々が使っているものではうまく使えない、とかいうこともなくなっていくのかなと考えるとワクワクしたりもします。そこまで到達するには、まだまだ時間がかかるかもしれないけど、結果としてみんなが同じように使えるようになっていくのであれば、本当の意味でみんなが自由に使えるようになるわけですし、とてもいいことだと思います。」

- 制作現場で考えてみるといかがですか。

田中「今のメジャーブラウザとよばれるブラウザですら、まだきちんとサポートできていない部分があったりするので、実際にはスタンダードじゃないこともやらざるをえない場面がどうしてもありますよね。しばらくは過渡期だからしかたないのかもしれません。やはり、お客様に不便をかけることはしたくないですし、あえてスタンダードから外れてもやるべきというケースでは、そうせざるをえないというのが現状ですね。」

富士通のWebサイトでは、HOMEぺージなどをはじめ主要なページはフルCSSでレイアウトされており、"Web標準" というキーワードにもいち早く対応している。

アクセシビリティはあらゆるWeb技術のDNAであってほしい

- “アクセシビリティ”、“Webスタンダード” 以外にも、”SEO” とか “Web 2.0” 、”Ajax” とかいろいろなキーワードが最近ありますよね。

高橋「SEOは分かりやすいですよね、結果が目に見えて分かりますし。最近では、ユーザビリティも理解されるようになってきましたし、アクセシビリティとか言葉はいろいろ変わっても、その本質は変わっていないような気がしますね。Web 2.0にしてもそうですが、結局はみんなが使えるかどうかが大事ですし、使いやすいものを使いたいように使える、ということでいえば、言葉は違えども目指すところはどれも同じことなのではないかと思いますね。」

田中「私の中では、アクセシビリティは決して特別なものではないです。それがたとえ “Web 2.0” の新しい技術であろうと何であろうと、アクセシビリティというDNAは必ずそこにある、というのがあるべき姿だと思いますし、そうあってほしいですよね。」

- では最後に、今後に向けてどういった課題やテーマに取り組んでいこうとお考えでしょうか。

高橋「富士通としてのテーマは、やり続けることの難しさをどうクリアしていくか、に尽きますね。やることは簡単なのですが、それを企業体として継続していくことの難しさというのが課題でありテーマだと思っています。」

田中「今一番気になっているのは、W3CのWCAG 2.0です。WCAG 2.0が勧告になったら、もしかすると富士通の指針も改版する必要が出てくるかもしれないですし、ラストコールのワーキングドラフトを読んで勉強しているところです。」

- アクセシビリティはWebサイトを運営していく以上、永遠にやり続けていくものであり、終わりがないものですよね。そういう意味でも、取り組み始めた頃の意識をみんなが持ち続けて、企業という組織として継続していくというのは大変ですし、そのときそのときでテーマは変わっても、まだまだ挑戦は続いているというわけですね。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

実践事例インタビューの第1回目、いかがでしたでしょうか。富士通の高橋さんとは、セミナーなどの講師としてよくご一緒させていただく機会があるのですが、久しぶりにお話をじっくり聞くことができました。そして、一歩先を歩んできた富士通のサイトが現在直面しているのは、いかに継続していくか、という新たな課題。たしかに、ガイドラインを作成して、リニューアルして、というのはあくまでスタートラインに立ったにすぎません。また、Webの技術はどんどん進歩していきますが、「新しい技術であっても、アクセシビリティというDNAは必ずそこにあってほしい」という田中さんの言葉にも大きく頷きました。そういえば、Flashのアクセシビリティにもいち早く挑戦し、その制作ノウハウを公開したのも富士通のサイトでした。これからも企業サイトのベストプラクティスの一つとして、日本の企業をリードしていく存在であり続けることに期待したいと思います。[次回へ続く]

このページの先頭へ▲